Slackで簡単に「日報」ならぬ「分報」をチームで実現する3ステップ 〜Problemが10分で解決するチャットを作ろう〜
開発プロジェクトを進めていくと、チームは様々な課題に直面する。こうした課題は、週次のミーティングや日報で共有して解決していくことが多い。
課題は大小様々だが、特に数時間で解決できるような小さな課題をいかにリアルタイムで解決していくかで、チームのスピード感が大きく変わってくる。
僕のチームでは、リアルタイムの課題解決の為に、社内チャットSlackを社内Twitterのようにする邪道な使い方「分報」という取り組みを実践している。
> 日報の弱点日報の弱点
日報は一日の業務の報告書で、一般的に「進捗状況」「体験」「学習」「課題」が記載される。これらをチームで共有することで暗黙知を減らし、個人とチームを成長されることが目的だ。報告方法はチームによって様々だが、メールをはじめ、Qiita:Team、gamba!などのグループウェア上に投稿することが多い。
- 進捗状況: 計画どおりに進んでいるか?
- 体験: 達成したこと・失敗したこと・成果
- 学習: 新たに知ったこと
- 課題: 現在はまっているところ、悩み、困っていること
何でも日報でコミュニケーションしてしまうと、逆にチームのスピード感が損なわれる。特に、未解決の課題を日報で共有するのは情報伝達が遅すぎる。重大な問題でもチームに周知されるのがその日の終業時間になってしまうからだ。解決が翌日に持ち越しになることもある。こうした無駄な待ち時間が積み重なると、チームの行動がどんどん遅くなってしまう。
日報のもう一つの弱点は、解決済みの課題が表面化しにくい点だ。メンバが課題にぶち当たったとしても、情報共有の24時間間隔になるため、その間に課題が解決されてしまうことがある。たとえ、6時間ハマったとしても終業時刻に解決していたら、日報には「課題」として載らない。もし、チームにその課題を30秒で解決できる先輩がいたとしても、困っていることが伝わらなければ、助けてもらえない。チームとしては30秒で解決できるはずなのに、個人で努力した結果、チームは6時間を無駄にすることになる。
> 日報の弱点を補える「分報」とは日報の弱点を補える「分報」とは
課題解決へのアクションが遅れてしまうという日報の弱点を克服するために、僕のチームでは「分報」という独自の取り組みをしている。分報ではSlackなどの社内チャットツールを使い、「今やっていること」や「困っていること」をつぶやく。課題をリアルタイムに共有できるのが特徴だ。日報が社内mixi日記だとすると、分報は社内Twitterにあたる。
日報は、1日分の情報を簡潔にまとめる必要があり、許される内容が限られていることが多い。一方、分報にはそういった制限がない。チームでは「今やっている作業」や「今困っていること」について積極的に発言することを推奨しているが、これに限らない。プライベートなことでも、感情面についても自由に発言していいことにしている。
名前は「分報」だが、毎分書き込む義務は課していない。つぶやくペースもメンバによって違うし、とにかくストレスなく自由に発言してもらえる環境を心がけている。
> 全員にSlack上の「個室」を与える全員にSlack上の「個室」を与える
分報を実現するために僕のチームでは、各メンバにSlackのチャネルを1つ割り当てている。チームで1つのチャネルを共有するのではなく、個人ごとにチャネルを与えているのには2つの理由がある。
ひとつ目は、情報が錯綜しないようにするためだ。#generalなどの共有チャネルに全員が「今困っていること」を書いていると、課題解決が並行して走る場合がある。そうなると、発言が何についてのものなのか分かりにくくなり、コミュニケーションのコストが上がってしまう。
ふたつ目は、「所有感」を出すためだ。共有分報チャネルだと「誰かの迷惑になってしまうかもしれない」という心理が働き、自由に発言することができない。分報チャネルが仮想空間上の自分の「個室」で、他のメンバは遊びに来ているゲストと思うと、発言の心理的負担がぐっと低くなる。チャネルを作る上でのポイントは、「会議室」ではなく「個室」を与えること。
チャネルの命名規則は、#times_{アカウント名}
にする。チャネル名の頭を同じ単語で整えることで、チャネル一覧で分報チャネルが集まり見やすくなる。
- #times_reoring (reoringの分報チャネル)
- #times_suin (suinの分報チャネル)
Slackには二人きりでチャットできるダイレクトメッセージがある。Slackユーザなら、これを使って分報を書かせたらいいのでは、と思うかもしれないが、お勧めしない。分報の目的は、進捗報告ではなく、今巻き起こっている課題を全員で解決し、チーム全体のスピードを最適化することだからだ。全員が参加できる必要がある。チーム全員の目に止まらないダイレクトメッセージは、この目的が達成しにくい。こうした理由から、僕のチームでは、分報はダイレクトメッセージではなく個人のチャネルで行うようにしている。
分報の中身はつぶやきである以上、誰かが助けてくれる保証があるわけではない。そのため、僕のチームでは「誰かに助けてほしい」依頼の場合には、#helpmeチャネルに書くことにしている。このチャネルに投稿があったら即時に全員が反応し、助けなければならない。実際は、分報チャネルにつぶやくと誰もが率先して助けようとするので、#helpmeチャネルの書き込みは1年間でたった11件だった。
> 実体験から見る分報のメリット実体験から見る分報のメリット
> 10分以内に課題が解決できる10分以内に課題が解決できる
メンバが何か課題にぶち当たっていたとしても、同僚に直接 助けを仰ぐのは簡単ではない。特に自律的な人が多いチームでは「できるだけ自分で解決しよう」「ちょっとやってみて万策尽きたら相談しよう」と遠慮してしまう場合もある。
分報チャネルがあると、どんな小さな課題でも遠慮なく発言することができる。しかも、「○○についてお聞きしたいのですが、」のような枕詞も不要。あくまで「つぶやき」という感覚だからだ。カジュアルに問題を共有できるため、課題を10分以内に解決することもできる。
このやりとりでは、Scalaのビルドツールが起動しない問題について、hiroyoshiがつぶやいたものだ。これをreoringが発見し、8分後には解決に至っている。分報がなくても、hiroyoshiは優秀なエンジニアなので、自力でも調べて後に解決できたはずだ。だが、1人でやっていたら8分間以上はかかったかもしれない。こうした小さな時短の積み重ねで、チームが加速していく。
> 個人の学びが自然とチームに広まる個人の学びが自然とチームに広まる
僕のチームでは、プロダクトに人工知能(AI)を取り入れるべく、AIの研究を始めている。そして、下のチャットに出てくるhiroyoshiは、プロジェクトでAI研究をリードしてくれている。彼が分報に書いたのは、彼が見つけたばかりの画像認識のライブラリだ。
他のメンバは彼の投稿を見ることができたので、彼に質問したり、リンク先の情報に目を通すことができている。分報があるおかげで、こうした個人の学びも瞬時に共有することができる。
分報で学びを共有できたもう一つのケースは、hiroyoshiの「モナドを学習したい」という言葉から始まった。
モナドについては、既にreoringがかなり情報を仕入れていて、自分が読んでみて良かった記事を共有した。
分報では、メンバが何に興味を持ったかが表面化しやすくなり、詳しいメンバの知識がチームに広まりやすくなるのも分報のメリットだ。
> 分報をチームに導入する3ステップ分報をチームに導入する3ステップ
> 分報チャネルを作る分報チャネルを作る
チームメンバ全員分のチャネルをSlackに作る。チャネル名は#times_{ユーザ名}
にする。
> チャネル一覧を共有するチャネル一覧を共有する
全員のチャネルリスト一覧を作り、Slackで共有する。
#times_suin
#times_reoring
#times_hiroyoshi
↑ 各人の分報チャネルを作ったので、自分のチャネルに参加してください
> 分報の自由さを強調する分報の自由さを強調する
とにかくなんでも書いていいというルールを作り、その自由さを周知する。
この分報チャネルは、社内Twitter的なものです。
「今やってること」や「今困ってること」から、猫写真・昼飯、何でもありなので、どんどんつぶやいてください。
お互いのチャネルに参加しあって、もし困ってるメンバがいたら助けてあげてください
Slack上の周知は発言で流されるので、分報チャネルの一覧とルールについては、Qiita:Teamなどのグループウェアに掲載して、後で見返せるようにしておくといい。
> 分報を定着させるための方法分報を定着させるための方法
ツールだけセットアップしても、はじめのうちは誰も分報をしてくれない。分報を定着させるには、自ら動くことが何より大事だ。
> 自分で書いてみせる自分で書いてみせる
まず、自分のチャネルにメンバ全員を招待した上で、分報を書いてみせる。メンバは分報がTwitterレベルのカジュアルなものと知らないので、仕事に関係ない昼飯の写真をアップしたり、猫の動画をシェアしたりもして、書く内容のハードルをとにかく下げまくる。ユーモアや絵文字も多用する。
> 自分から話しかける自分から話しかける
「うまくいってる?」「困ってない?」などと話しかけてみる。この際、進捗確認やプレッシャーと思わせないように注意する。分報は進捗確認が目的ではなく、異変や課題をいち早く発見し、解決につなげてあげることを忘れずに。
> 依頼を分報チャネルでやる依頼を分報チャネルでやる
分報に書き込む回数を自然と増やすために、個人への依頼を分報チャネルに書き込むのもありだ。例えば、デザイナーにロゴ画像を出して欲しいときに依頼したり、エンジニアに仕様を聞いたりする。
> まとめまとめ
日報で課題を共有すると解決が遅れる。Slack上に、分報コーナーを設置することで、課題の発見スピードが上がり、解決までの無駄な待ち時間が少なくすることができる。